「歯」と聞くと、普通は健康や美容の象徴だと思うだろう。白くて、まっすぐで、キラリと光るあの歯。だがこの世には、“ためになる歯”があるように、“ためにならない歯”というものも存在する。ここでは、その「ためにならない歯」たちの物語を、少し真面目に、そして少しおかしく語ってみたい。
1.親知らずという裏切り者
まず筆頭に挙げたいのが、あの「親知らず」だ。
人類が進化の過程で「火」を使い、食べ物を柔らかく煮るようになった瞬間から、この歯は役割を失った。にもかかわらず、21世紀になってもなお、しれっと口の奥で生えてくる。しかも、まっすぐ育てばまだしも、大抵は斜めを向いて、隣の歯を押しのけ、痛みと腫れをプレゼントしてくれる。
歯医者に行けば、「抜いたほうがいいですね」と言われ、抜けば抜いたで数日間は頬がふくれ、食事もままならない。まるで“成長したら退場が決まっているエキストラ”のような存在だ。
それでも彼らは、時折「俺たちも必要だった時代があったんだ」と主張する。縄文時代の堅い木の実をかみ砕くために、彼らは確かに必要だった。だが現代の親知らずは、ナッツではなくポテトチップスをかむだけ。
もはやその存在は、進化の残りカスのようでもあり、現代社会における“ためにならない歯”の象徴である。

